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新郎のお父さんとの、ひそやかな絆

披露宴も終盤に差し掛かり、僕はトイレに立った。新郎は高校時代のクラスメイトで、仲間うちで新婦もまじえて飲みに行ったりもしている、非常に近しい友人の式だ。

トイレから直接会場に戻らずに、喫煙所へ立ち寄った僕は、そこで新郎のお父さんに泣かされることになる。

お父さんは一生懸命アンチョコを見ながらスピーチの練習をしていた。面識もなく、邪魔しては悪いと距離を取り、隅っこで俯きがちにタバコを吸っていた僕に、お父さんが歩み寄ってきた。

◯◯(新郎の名前)のお友達ですか?

はい、と答えると齢70近いだろうお父さんは身体をくしゃっと丸め、手を拝むようにして「一回見てやってもらえませんか」というのだ。

既に泣きそうだった。

なんとしても息子のためにスピーチをばっちり決めたいんだな。僕は快諾した。

何度か読み上げてもらう。たどたどしいがそれがまた感動的で、僕は「ご立派だと思います、とても感動しました」と言った。

僕らはそれぞれに席に戻り、来るべき時を待った。そしてついにお父さんが呼ばれた。スピーチも無事成功し、感動の輪が会場中を包んだ。

その直後僕は大泣きする羽目になる。

お父さんが僕を探し当てて「実はあそこにいる倅の同級生に練習に付き合ってもらいました。いい奴でした」といったのだ。

続けて「私は子育てには無頓着でしたが、倅はこんないい奴と友達なんだなと誇らしく、生まれてはじめて妻に感謝の念を持ちました」といったのだ。僕は大泣きし、ほかの列席者たちは笑い泣いた。

ありがとう、お父さん。お父さんの息子も、だいぶいい奴っすよ。